邪馬台国と大和朝廷

邪馬台国と大和朝廷 (平凡社新書)

邪馬台国と大和朝廷 (平凡社新書)



日本の歴史上、最初の文字情報、魏志倭人伝
そこに登場するナゾの国家、邪馬台国
この本では邪馬台国研究史と、最新の学説(著者の説)を
紹介します。


邪馬台国の議論は、有名なものとして「邪馬台国大和説」と
邪馬台国九州説」の2つがあります。
要は、邪馬台国がどこにあったのか、という議論なのですが、
より本質的には邪馬台国大和朝廷には連続性があるのか、
ということです。
邪馬台国大和説」では大和朝廷邪馬台国の後裔であると
します。卑弥呼神功皇后である、など大和朝廷の歴史の中に
邪馬台国を位置づけます。
一方「邪馬台国九州説」では大和朝廷邪馬台国に連続性は
無いとします。大和朝廷邪馬台国とは独立に発生した権力で
あり、魏志倭人伝の時代ののち、大和朝廷によって邪馬台国
滅ぼされたとします。
他に大和説と九州説の折衷案として邪馬台国東征説なんかも
あります。


本書の著者は九州説です。本書の発行は2004年ですので最新
とは言え5年ほど前ですが、当時の学術調査の成果に基づいて
理路整然と説明されます。
私はどちらかといえば大和説に魅力を感じていたのですが、
この著者の論説を読んで「なるほど」と思いました。
少し思ったのは、陸上を歩く速度と水上を航行する速度とは
違いますので、「水行30日、陸行一月」と陸上60日とが同一
距離とは思えないということでしょうか。


邪馬台国議論は素人には少し腰が引ける部分があります。
学問的に大和か九州か、というのは面白い話題だとは思います
が、それが地域の町おこしなどと結びついて、利益誘導の
意味合いを含んでおり、純粋な学問上の話題では済まなく
なっているからです。
邪馬台国の所在地いかんで、損する人、得する人がいるのです。
そのため、邪馬台国の所在地の議論がやや冷静さを欠いている
気がするのです。
現在も日本各地で古代遺跡の発掘作業が続けられておりますので、
いつの日にか議論の余地なく所在地が確定されるときが来るのか
とは思いますが、その際にもおそらく根拠のない誹謗中傷の類が
避けられないでしょうね。
それが学問的にやや不幸だな、と思います。