近衛文麿

近衛文麿 (岩波新書)

近衛文麿 (岩波新書)



昭和の初期、日中事変や太平洋戦争勃発時に
日本の首相を務めていた近衛文麿
本書はその近衛の生涯を追います。


近衛文麿本人は「運命」という言葉を使って
いますが、確かに運の悪い人ではあったな、
と感じます。
近衛家という貴族筆頭の家に生まれたがゆえに、
昭和初期という極めて困難な時代に首相の地位に
就くことになりました。
本人は戦争を避けたがっていたようですが、日中
事変はどんどん拡大し、国際環境はどんどん悪化し、
そしてアメリカとの開戦へと追い込まれていきます。
そして敗戦。戦争犯罪者に指名されるもそれに抗し、
自殺します。


読んでいて思うのは、確かに運も悪いのですが、
それ以上にあまりにも無気力で無責任。
周囲の状況、特に暴走する陸軍になすすべもなく
引きずられていきます。
近衛文麿は首相という地位にあり、しかも国民人気も
高かったそうです。暴走する陸軍に対して、なんらかの
対決的姿勢を見せることはできなかったのか、
戦争犯罪者に指名されたのは本当に単なる「不運」なのか、
実に疑問です。


ただ、私も社会人として働きながら思うのは、近衛文麿
いうのはものすごく日本的な人だな、ということです。
無気力で無責任な人は私の周りにもたくさんいます。
しかもそういった人は何の批判にもさらされずに重要な
地位に就いていたりします。
悪意を持って悪事を働くことはない人々ですけれども、
重要な機会に「何もしない」ことは、犯罪であると
看做されても致し方ないと思います。