日本の歴史〈10〉下克上の時代

日本の歴史〈10〉下克上の時代 (中公文庫)

日本の歴史〈10〉下克上の時代 (中公文庫)



日本の歴史の第10巻は室町時代の中盤、4代将軍義持から
9代将軍義尚まで。最大のイベントは、やはり応仁の乱


室町時代の全盛期から、どんどん凋落していく将軍権威。
それに成り代わるかに見えた守護大名応仁の乱を境に
力を失っていきます。時代の主役はさらに下層の国人レベル
へと移っていきます。


読んでいて思ったのは、歴史に登場する人物が非常に
広汎な身分階層から出てきていることです。
室町以前の歴史では、まず天皇家、次いで貴族(主に
藤原氏)、源平の武士階級まででした。
歴史の舞台も限られていました。主に畿内地域、特に
京都。あとは鎌倉程度でした。
この本ではこの時代の庶民の暮らしぶりに焦点が当てられて
いるのですが、そこまで行かなくても例えば応仁の乱
乗じて越前守護になった朝倉氏。越前の国人レベルの出身で
いままでの歴史であれば名も知られなかったであろう家です。
地方の中級武士が歴史の主役へと駆け上っていきます。


上述した通りこの本では庶民の暮らしに大きく記述を割いて
います。さすがに史料が少なくて推量を交えた記述もあちこち
にあるのですけど、農民の暮らしがおぼろげながらも描ける
のはこの時代以降のことでしょう。
徳政一揆や自検断など、庶民のエネルギーの高まりが感じ
られます。そのピークが山城の国一揆でしょう。
山城の国一揆を主導した山城国人の名前が分からないのは
非常に残念ですけど、農民と国人が結託したこの事件は
歴史に大きな意味を持つと思います。


著者自身が繰り返し述べられているのですけど、この時代は
中央政権の力が弱まり、混乱の時代と論じられがちなのですが、
実は庶民、国人、商人など、これまで下層民と思われていた
人々のエネルギーが迸る活力的な時代なのだ、という論には
深く感銘を受けました。
この後は戦国時代へと突入していくわけですが、こういった
庶民のエネルギーがあればこそ地方の有力大名が自立できて
いったのだと思います。非常に面白い一冊でした。