マグダラのマリア―エロスとアガペーの聖女

マグダラのマリア―エロスとアガペーの聖女 (中公新書)

マグダラのマリア―エロスとアガペーの聖女 (中公新書)



キリスト教の聖女マグダラのマリアに関する、主に
美術史方面における受容の歴史を追います。


マグダラのマリアとは、キリストと同時代に生きた女性で、
元娼婦でありキリストの説教を聞いて悔い改めて聖女と
なった女性であるとされています。
これには異説もあり、本書でも紹介されていますが、
キリスト教福音書の中では、元娼婦とは断定されていません。
しかし、後世に広く伝わった伝承では元娼婦であると
されています。


キリスト教にあっては聖女とされていることもあって、
キリスト教美術に多く取り上げられており、その歴史が
紹介されています。
特に「娼婦」という淫らさがキリスト教の聖職者に
受け入れられにくかったのは事実であり、その点について
美術表現は試行錯誤されています。
また、それゆえにマグダラのマリアキリスト教世界における
ジェンダーの問題とも大きく絡んでいます。
特に私が驚いた本書の指摘は、さまざまな理由によりいわゆる
お嫁にいけなかった女性に残された道は、中世にあっては
娼婦になることくらいしか職業選択の自由が女性には
なかったという点でした。なるほど、言われてみれば確かに
中世における女性の自立は極めて困難であったでしょうし、
その行きつく先が娼婦くらいしか残されていなかったというのは
首肯できる指摘でした。


本書は美術史をその主題としているため、多くのマグダラのマリア像が
紹介されています。その中でも、美術素人の私の目から見て一番の
お気に入りは口絵-7に紹介されているグイド・レーニの「悔悛の
マグダラのマリア」です。素人なので立ち入った評論はできません
けれども、美的な点で見て、一番美しいと思いました。
図像が多いのが本書の特徴です。できれば、全ページカラーだったら
よかったですね。


ちなみに、これはWikipediaに載っているネタですが、マグダラのマリア
フランス語では「マリー・マドレーヌ」となり、洋菓子マドレーヌは
ここから命名されたそうです。