日本の歴史〈14〉鎖国

日本の歴史〈14〉鎖国 (中公文庫)

日本の歴史〈14〉鎖国 (中公文庫)



中公文庫の日本の歴史シリーズの14巻は「鎖
国」。13巻までは古代から時系列に江戸幕府開設
までを扱ってきましたが、14巻では少し趣向が変
わって、時系列的には1543年(12巻で扱われた時
代)まで戻って、日本の海外交渉史を特別にまとめ
た一冊になっています。海外とは言っても、中国
(明、清)や朝鮮はあまり登場せず、主に西欧諸国
との関係史です。


読んでいて最初のころは政治史に比べて「地味だ
なー」と思っていたのですが、一般向けの歴史本
にはあまり触れられない内容だけに知らないこと
が多く、途中からは結構面白く読みました。鎖国
と言うと、完全に国を閉ざして引きこもっていた
ような印象がありますが、江戸幕府にとって鎖国
は要するに貿易独占の意味があって、貿易の舞台
は確かに長崎に限られていますが、貿易の規模は
決して小さくはないんですね。鎖国の時代に貿易
を許された国としてオランダがあります。オラン
ダの対日貿易はもっぱらオランダ東インド会社
おこなっていたのですが、鎖国実施後でもオラン
ダ日本間の貿易額はオランダ東インド会社の東ア
ジア諸国との貿易額の中ではトップに位置してい
ます。オランダにとって日本は最大のお得意様
だったのです。江戸幕府はこの貿易により莫大な
利益を上げています。全然、引きこもってはいな
かったのです。


他にも、奉書船制度なんかも知りませんでした
し、オランダ人が出島に閉じ込められたのは有名
ですが中国商人も唐人屋敷というところに閉じ込
められていたそうです。
また、本書にはジャガタラお春という女性の生涯
が詳しくしるされています。ジャガタラとは現在
ジャカルタのことです。お春はイタリア人の父
と日本人の母を持つ混血児で、鎖国の実施にとも
ない故郷長崎からジャカルタへ追放された女性で
す。追放時15歳。やがて当地のオランダ人と結婚
し、子をもうけ、年老いて、日本を懐かしみなが
ら73歳頃に亡くなります。そのお春の手紙や遺言
状がジャカルタやオランダの公文書館などに残さ
れていて、当時のジャカルタでの追放日本人たち
の生活ぶりが詳細に分かります。
もう一つ面白かったのは中国明清交代期の明の遺
臣、国姓爺鄭成功江戸幕府との交渉の様子で
す。江戸幕府は三代家光の時代ですが、江戸幕府
側は援軍派遣を計画、準備するところまで決心を
していたらしく、かなり緊迫した状況であったよ
うです。


鎖国」というと、明治維新時の混乱ぶりなどか
らかなりマイナスなイメージがあると思います
が、鎖国が実施された当初、江戸時代初期の幕府
の思惑は結構現実的で、長崎での貿易など、やる
ことはやってるんだなぁ、と感じました。幕府は
当時の国際事情や貿易の利害などをかなり理解し
て冷静に判断しています。江戸時代初期の幕府の
立場としては、「鎖国」は結局、それしかない選
択肢だったのではないでしょうか。