幕末・維新―シリーズ日本近現代史〈1〉

幕末・維新―シリーズ日本近現代史〈1〉 (岩波新書)

幕末・維新―シリーズ日本近現代史〈1〉 (岩波新書)



岩波新書のシリーズ日本近現代史の1巻です。扱われている時代は1853年から1877年まで。ペリー来航から西南戦争までです。


前半で強調されているのは、江戸幕府は決して未開の国家ではなく、非常に成熟した政治、経済、社会を有していたということです。ペリーが恫喝外交を行おうとするのに対して幕府官吏は巧みにこれに応じていますし、開国後には諸外国に国内経済を牛耳られることなく国内の商人層が対等に諸外国の商人と渡り合っています。また、百姓層には「国訴」という行為が認められていて、幕府はかなり柔軟に百姓層の要求に応じていたそうです。また、幕府はペリー来航以前、唯一国交を保っていたオランダから毎年「オランダ別段風説書」というものを受け取っていたそうで、これはオランダから幕府へ、毎年の世界の動向が通知されるものなのですが、幕府は鎖国という状況下にあってもかなり正確に世界情勢を理解していたことが説明されます。ペリー来航についても、実は来航前年の1852年の別段風説書に記載されており、幕府は事前に承知していたのでした。


一方で幕府の当事者能力が低下しつつあったのも事実のようで、諸外国からの開国要求に対して幕府はこれを単独で処理することができず、諸大名や朝廷に諮問を繰り返します。当然諸大名や朝廷の発言力は高まり、特に攘夷を強硬に主張した孝明天皇の存在が大きく取り上げられるようになっていきます。そもそも幕府は孝明天皇がこれほどまでに開国反対であることを事前には全く承知していなかったようで、開国の勅許はすぐにも得られると思っていたようです。ところが朝廷からの回答は、たとえ戦争になろうとも断固攘夷というもので、これに幕府側は慌てふためきます。そしてこの朝廷と幕府の対立が長州藩に利用されることになります。


幕末最大のイベント戊申戦争は本書では意外に取り扱いが小さく、わずか6ページで決着します。その後の明治初めの一大改革に大きくページが割かれています。その中で私は知らなかったのですが、この一連の改革に対して、百姓層の蜂起が連年のように繰り返されているんですね。佐賀の乱西南戦争など、士族層の反乱が相次いだことは知っていたのですが、明治維新によって解放されたはずの百姓層がものすごい勢いで蜂起しています。特に反発が大きかったのは地租改正と徴兵令。地租改正は結局大増税でしたし、徴兵令についても百姓は江戸時代は軍事とは無関係でしたからこれも負担増でした。また、これも私は間違って理解していたのですが、私は版籍奉還廃藩置県はワンセットだと思っていたのですが、これも全然別物なんですね。


本書末尾では朝鮮に対する強引な外交や琉球処分、北海道開拓などが登場し、拡張主義的な明治政府の姿勢が明確になっていきます。後々の不幸な歴史はすでにこの時点で用意されていたようです。