日本の歴史〈16〉元禄時代

日本の歴史〈16〉元禄時代 (中公文庫)

日本の歴史〈16〉元禄時代 (中公文庫)



中公文庫の日本の歴史シリーズの16巻は「元禄時代」。13〜15巻にかけて江戸時代初期の政治史、外交史、農政史を見ていたのですが、ようやく時代が前に進みました。



今回のタイトルは「元禄時代」ということで、元号「元禄」は1688年から1703年までなのですが、本書で扱われる時代は解説によるとその前後を含む4代将軍家綱、5代将軍綱吉の時代、1651年から1709年まで、巻末の年表によると1634年から1716年まで、おおよそ17世紀中盤から18世紀初頭までです。



今回も読むのが結構難しかったですね。江戸時代というと平和なイメージと停滞のイメージがあると思いますが、江戸時代初期は結構激動の時代だったようで、何が激動だったのかというと経済構造が激変したんです。戦国時代までは農業を基本とする経済構造で、武士階級は農村支配を存立基盤とするのですが、戦国時代の末期の全国統一過程の中で各地域経済がシャッフルされてそれぞれに連環していき、全国規模の経済圏が成立しはじめます。また、江戸時代の初期には武士階級の城下集住政策が採られ、城下町という消費市場が形成されていきます。その最たるものが江戸。江戸の人口は100万に達し、本書の中でも同時代の代表的な世界の各都市(ロンドン、パリ、ウィーン、モスクワ、ベルリン)と比較して、世界一の大都市であったであろうと結論しているほどの巨大都市です。その消費量は莫大であったことは容易に想像され、この消費量を賄うために全国レベルで流通網が整備されていきます。これにより流通業、小売業が大きく発展し、商業を中心とする経済構造が成立していくことになります。



この経済構造の激変が本書内で説明されるため、ある程度の経済学的素養を持っていないと、読むのが非常に難しくなるわけです。



また、この時代は文化的にも大きな発展があります。尾形光琳松尾芭蕉井原西鶴近松門左衛門といった人々がこの時代に活躍したことが紹介されています。また、歌舞伎が大衆芸能になっていったのもこの時期。これらの紹介箇所を読むにも、ある程度の歌舞伎の素養や江戸時代古典文学の素養があった方が理解は深まると思われ、本書は想定される読者の教養レベルが高いんだな、と感じました。



私はこの本を読むまでこの時代はほとんど知りませんでした。元禄バブルって、犬公方綱吉の生類憐みの令の真っ最中だったんですね。そんな基礎的な知識も持たずに読みました。私も江戸時代に関しては冒頭に上げたような停滞の時代というか、あまり変化のない時代と思っていたので、かなりその認識を改めることになりました。あ、あと忠臣蔵もこの時代です。