日清・日露戦争―シリーズ日本近現代史〈3〉

日清・日露戦争―シリーズ日本近現代史〈3〉 (岩波新書)

日清・日露戦争―シリーズ日本近現代史〈3〉 (岩波新書)



岩波新書のシリーズ日本近現代史第3巻です。今回扱われる年代は1890年から1910年。日清戦争日露戦争韓国併合の時代です。



序盤は明治の元勲たちと帝国議会の攻防。意外と議会が健闘しているので新鮮でした。



条約改正の詳しい経緯はよく知らなかったのですが、対外硬派と呼ばれる不平等条約改正を求める勢力が「現行条約励行」を求めた、というところで「???」となりました。調べてみると、「現行条約」とは安政五カ国条約のことですが、この条約では開港地を限定しており、外国人は居留地周辺からは移動できないことになっており、この点を厳密に実行して外国人の自由を奪おうという政策のようです。当時、治外法権に守られた外国人がそこらじゅうに住みついて日本人にとって迷惑だったのでしょう。



日清戦争の開戦過程の中に懐かしい人物が登場します。大鳥圭介。かつて戊辰戦争で幕府脱走軍を率いてはるか蝦夷箱館まで転戦し、明治政府に徹底抗戦した幕府歩兵奉行。その大鳥がこの日清戦争開戦直前の時期、朝鮮公使として漢城にいたんですね。すでに大日本帝国政府は日清間の戦争を覚悟していたのですが、それを知らない大鳥は次々にだされる政府の強硬策に対して「マジ?!」って感じで「いや、それ以上はヤバいから」という要請を何度もだしているのがほほえましいです。しかし日本の陸奥宗光に押し切られて、結局1894年7月23日、日本軍朝鮮駐留部隊とともに朝鮮国王捕縛を実行、日清開戦の片棒を担ぐことになってしまいます。以降、大鳥は本書には出てきませんが、Wikipediaによると1894年10月11日に公使を解任されて帰国して枢密顧問官となり、1900年には男爵。1911年に亡くなります。



日清・日露戦争は確かに明治維新以来国力を増幅させてきた日本の輝かしい到達点ではありますが、それは本書にある通り、韓国併合という近代日本の暗部に直結していく歴史的な流れがあります。現代の南北朝鮮の政治学者、歴史学者韓国併合条約は無効だと主張していますが、本書では特に有効だとか無効だとかという議論はせず、わりと淡々と事実関係のみを記述していきます。私は、歴史家としてはそういう姿勢でよいと思います。条約が有効か無効かというのは政治の問題であって、歴史の問題ではありません。隣国が歴史学者も動員して無効を主張することには、私はやや違和感があります。条約の手続きや形式の問題はあまり大きな問題ではなく、結果として条約はおおむね列強に受け入れられ朝鮮半島は日本の勢力圏と認められたことにこそ意味があります。



ただし、筆者は植民地支配というものに関してははっきりと嫌悪感を示しています。それは歴史家というより一人の人間としての意見表明でしょう。植民地支配というシステムは被植民地側の抵抗と解放によってすでに淘汰されてしまった過去のシステムですが、歴史を学び植民地支配の現実を知ればそれに対する否定的感懐に至るのは自然なことだと思います。



この2つの戦争で変に自信を得て暴走していく軍部が国家を滅ぼしてしまうのは、またのちのお話。