退却神経症―無気力・無関心・無快楽の克服

退却神経症―無気力・無関心・無快楽の克服 (講談社現代新書)

退却神経症―無気力・無関心・無快楽の克服 (講談社現代新書)



この本が発行された当時(1988年時点)では、退却神経症とは筆者が名付け提唱している言葉であって、正式な医学用語ではないそうです。20年以上経った現在ではどのような扱いになっているのか分からないのですが、精神医学素人の私がWikipediaで調べましたところ、「神経症」という言葉は現場ではもうすでに使われない言葉だそうですね。


本書では退却神経症は、本来真面目であった人が突如本業(学生の学業、サラリーマンの会社勤務や主婦の家事育児など)を放棄してしまう精神疾患のことをそう呼んでいます。ただし本業以外の場面では比較的元気で、本来の真面目な人に戻ります。本業のみの選択的放棄(これを本書では退却と呼んでいます)なのです。
大学生の症例、サラリーマンの症例、大学院女子学生の症例などが紹介されていて、非常に興味深い内容になっています。


ただし、以前読んだパーソナリティ障害の本に比べると、まだまだ疾患の分析が甘いというか、表面的な症状の説明に終始していて根本原因の分析まではできていないようです。パーソナリティの分割(スプリッティング)が発生しているのではないか、との推論にまでは達していますが、そのスプリッティングの原因までは至っていません。20年以上前の本ですから仕方ないのかもしれませんが、現在の精神医学ではパーソナリティ障害の多くが幼児期の家庭環境に起因しているらしいことを突き止めていますので、退却神経症についてもその可能性があるのではないでしょうか。


疾患の分析が上記のような状態ですから、予防・治療に関する記載も心構え程度のことしか書かれていません。例えばSSRIが有効なのかどうかさえ分かりません。もうちょっと最新の研究成果を知りたいですね。