ローマ人の物語〈38〉キリストの勝利〈上〉

ローマ人の物語 (38) キリストの勝利(上) (新潮文庫)

ローマ人の物語 (38) キリストの勝利(上) (新潮文庫)



ローマ人の物語」の38巻は表題ではコンスタンティウスの治世(西暦337〜361)となっていますが、晩年のユリアヌスとの確執は次巻に収められており、西暦337年から359年ころまでが扱われています。



皇帝もその取り巻きも将軍たちも含めて、英雄の存在しない時代です。皇帝コンスタンティウスは父コンスタンティヌスの死後、最大で五分されたローマ帝国を統一するのですが、それは英雄的勝利によってではなく、陰謀や幸運の結果として転がり込んできます。小心で疑り深い人物として描かれます。取り巻きには自己の保身を図る宦官たちが進出。陰謀により有能な者が皇帝に近寄らないように画策しつづけます。将軍たちは影が薄く、ほとんど登場しません。



こうした人物たちによる権力闘争が淡々と描かれていきます。カエサルの時代のような、著者の感情移入はなく、著者のこの当時のローマ帝国への興味はかなり薄れつつあるように見えます。



後半にいたって次期皇帝ユリアヌスが登場します。ユリアヌスもそれほど有能な人物とは描かれないのですが、ガリアでの治安回復に活躍します。前半のぐだぐだの権力闘争のあとだけに、ユリアヌスの活躍にはやや救われた感想を受けます。