ローマ人の物語〈39〉キリストの勝利〈中〉

ローマ人の物語 (39) キリストの勝利(中) (新潮文庫)

ローマ人の物語 (39) キリストの勝利(中) (新潮文庫)



ローマ人の物語」の39巻は皇帝ユリアヌスが主人公。即位直前の前皇帝との確執から即位後の治世、あとは次期皇帝ヨヴィアヌスの治世(7ヶ月)がおまけのように付属。



ローマ皇帝の中では最後の非キリスト教徒の皇帝で、帝国におけるキリスト教優遇政策を改めようとしたことでキリスト教徒から「背教者」と呼ばれることになります。もっとも、ユリアヌス自身はキリスト教徒ではないことから、キリスト教に敵対的な政策を採用したとしても「背教」などと罵られる筋合いはないのですが、おそらく後世のキリスト教史観から名づけられたのでしょう。



前巻でのガリアでの戦いや、前皇帝コンスタンティウスとの駆け引きなどではかなりの能力を見せたユリアヌスですが、皇帝になってからは今一つ精彩を欠き、件の反キリスト教政策もあまり成果は見られず、ペルシア遠征を試みるもこれも細部の詰めが甘く、わずかに足掛け3年、実質19ヶ月の治世の末にペルシア領内で戦傷死します。



「背教者」のあだ名でも分かるように、わずか19ヶ月の治世ながらキリスト教徒にとってはインパクトが大きな皇帝だったようです。しかしミラノ勅令を出したコンスタンティヌス以来のキリスト教優遇策、中でもキリスト教関係者への減税措置によりローマ帝国内の資産家階級がキリスト教に改宗して既得権益層を形成しており、ユリアヌス没後はキリスト教優遇策に戻ってしまいます。



著者はキリスト教ローマ帝国滅亡の最大の原因と考えておられるようなのでユリアヌスの反キリスト教政策の失敗に大きな意味を見出そうとされているようですが、実際にはキリスト教が大きな勢力となる以前から経済の衰退や治安の悪化は始まっていたわけで、また、のちの民族大移動はキリスト教とは全く関係ありませんので、キリスト教に蚕食されることがなくても早晩ローマは衰亡していただろうとは思います。したがってユリアヌスの反キリスト教政策がもし成功していたら・・・ということを夢想することは、そんなに大きな意味はないような気がします。もし成功していたら、多少のローマの延命はできたかもしれませんね。