恥と意地―日本人の心理構造

恥と意地―日本人の心理構造 (講談社現代新書)

恥と意地―日本人の心理構造 (講談社現代新書)



日本人の行動指針として有力とみられる「恥」の意識についての考察。



タイトルからすると心理学本のようにも思えますが、日本の文学作品や映画の内容から「恥」を分析しており、どちらかといえば文化論的な本です。いくつか「まぁ、そうかな」と思える指摘もあるにはありますが、やや古い世代に属する感覚を議論しているように思えます。



というのも、登場する文学作品というのが「阿部一族」「曽我物語」「忠臣蔵」、映画は「男はつらいよ」などで古いんですよね。「忠臣蔵」でさえ、若い人ならタイトルくらいは知っている人は多いと思いますが、内容まで理解している人がそんなに多いとは思えませんし、「曽我物語」なんてタイトルすら知らないのではないでしょうか。「男はつらいよ」が日本の国民的映画などと呼ばれていたのも、何年前の話だよ、て感じです。本書発行は1998年ということでちょっと古い本ですが、おそらく1998年当時であっても「男はつらいよ」はすでに古い作品だと思います。なので、本書の分析に用いられているこういった作品群に共感した世代というのは、相当に古い世代だと思われます。



本書ではMRTAという懐かしい組織が登場します。1996年にペルーの日本大使館人質事件を起こした反政府組織「トゥパク・アマル革命運動」です。この組織のその後の動向はよく知りませんが、Wikipediaによると現在はほぼ壊滅状態にあるそうです。本書ではこの事件の際の日本政府の対応に言及されているのですが、日本政府はやはりイタい・・・。日本政府は「犠牲者を出さないように」という理想論を主張するばかりで、そのために何をすべきかという具体論はまったく出てこない。どうすべきか分からないのです。国際社会におけるおよその考え方としては、多少の犠牲が出てもテロに屈してはならない、というのが大勢でしたので、日本の「理想論」は国際社会においてあまり支持を得られず、しかも具体策がないということで完全に孤立しました。

結果的にはペルーの特殊部隊が突入を敢行し、幸いにも人質には犠牲者は出ずに済んだ(ただし、突入したペルー特殊部隊は2人が殉職し、MRTA側は全滅)のですがそれは結果論であり、突入は当然危険を伴い人質に犠牲が出る可能性も大いにありました。突入は事前に日本政府には知らされず「理想論」も無視されたわけで、日本の無力を国際社会に露呈した非常に恥ずかしい事件でした。この本の本題からは少し外れますが、この事件に関する記載が本書で一番おもしろかった印象です。